海亀と同じく、朝鮮に帰国した在外朝鮮人も社会の変化に大きな役割を果たしている。朝鮮戦争が休戦となった時から七〇年代にかけて、地上の楽園と呼ばれた朝鮮を目指して夥しい数の在外朝鮮人が中国や日本、ロシア、東南アジアから帰国したのだった。その総数は百万人ともいわれる大移動だった。彼らは、故郷の朝鮮に巨額な資産を持ち込んだだけでなく、教育や医療福祉の分野でもその発展に大きく貢献したのである。九〇年代に入ると、朝鮮への帰国者は激減するが、それでも金正日に対する崇拝と強い グ社会主義への信仰から朝鮮を目指すものは毎年数十人という単位で現れヽその流れはいまも続いている。
事実、二〇〇六年末には、北京に長く暮らしていた在中国朝鮮人の代表的な人物が、中国社会に起きた変化と対朝政策に反発し、家族とともに平壌へと戻ったという例もある。では、朝鮮に帰国した在外朝鮮人たちは、帰国後にはどんな職業に就くのだろうか? そこにはいくつかのパターンがあるが、まず金政権から最も信頼された者たちは党や軍の情報機関に入り、情報工作員として働くことになる。そして次は政府系の対外友好団体で通訳や訪問団の案内役を務めるか、もしくは大学などの研究機関で外国語を教える教師や研究者となるのである。さらに、もし経済的に余裕のある者であればレストランを経営したり、会社を興して貿易業に勤しむというケースもある。
中国大使館の外交官から聞いた話によれば、日本から帰国した、ある五〇代の女性は、帰国後に平壌市内で小さなレストランを経営したというが、その店は朝鮮で最も早くカラオケの設備を導入して有名になったレストランなのだという。二〇〇六年末、このやり手帰国者の女性オーナーは、朝鮮で初めて生バンドをレストランに入れ、再び話題になった。毎日プロのバンドによる生演奏が行なわれたレストランは若者らの人気を集めて繁盛したのだが、間もなく当局による取締りの対象とされてしまった。だが、当局からは警告とちょっとした叱責があっただけで、楽器の没収もなく事は収まったという。九〇年代に中国などに留学した海亀たちのなかには、現在、朝鮮ではすでに地方行政の要職に就いている者も少なくない。また、開城工業園や羅津・先鋒経済特区といった特別区で、責任あるポジションにつく海亀も次第に増えつつあるという。
こうした海亀たちのなかには、社会の末端で経済が困窮する実情を目の当たりにしている者もいる。彼らは、地方経済を改善する重要性を痛感している。そして、純粋な責任感から党や中央政府に対し、資金援助や政策的な改善を求めようと、分権という考えに傾いている者が少なくない。分権の声は、各級の党の代表会議や人民会議といった正規のルートを通じて、指導部にも届けられるようになってきている。社会主義体制と経済的な事情により、朝鮮の海亀の数は、まだそれほど多くない。しかし、その存在と役割は、朝鮮社会の未来にとって深い意味を持つことだろう。彼らの存在がどれほど社会を変えるのかにっいこは、中国社会において海亀現象が果した役割の大きさをみれば明らかだろう。
大臣のポストにも代え難い「政商」という旨味。八〇年代の半ば、経済改革が始まってまだ間もないころ、中国社会で人々が頻繁に口にした二つの流行語があった。その一つが「政商」であり、もう一つは「太子党」であった。太子党とは、中央政府の最高指導層に属する実力者の、子供や孫を指して使われる言葉だ。彼らは親の七光りと威光を借りて傍若無人に振る舞い、また時には不正や違法な手段さえ平気で使った。そして、親の政治的権力をフルに活用し、莫大な財産を手に入れたのである。一方の政商は、国営大手企業や軍が直営する商社の、トップたちを指した言葉だ。彼らは国家公務員であり、また現役の軍幹部という、社会でも羨望の対象となる身分を持つ。
2013年12月25日水曜日
2013年11月5日火曜日
ブータン最大の産業
それ故に、この薬草を県の産業として奨励する政策が採られ、その最も華々しいのが漢方の最も高価な薬剤の一つである冬虫夏草である。これは従来輸出禁止であったが、数年前に解禁されたことにより、ガサの牧畜民は新たな有力な収入源を得ることになった。ガサ県には、自動車道路が永久に建設されないということではない。現時点でガサの県民は、その必要を感じておらず、そうすべき時だとは思っていないだけである。将来技術も進み、工費も安くなり、自動車道路が必要で、その恩恵が感じられた時に初めて、自動車道路が建設されるであろう。それは、ガサ県民自身のペースである。
ブータンの自動車道路は、予算があり、技術的に可能だからという理由だけで建設される「公共事業」ではなく、地域社会、住民にとっての恩恵、弊害の両面を考慮した上で、国全体としての方針に照らし合わせて建設されている。これは、ブータンの近代化の哲学、方針を象徴することである。環境保護および自然資源の有効活用という点で、ブータンの水力発電は特筆に値する。ブータンにとって、落差が大きく水量が豊富な河川は、最大の自然資源であり、それによる水力発電は、ブータン最大の産業であり、最大の収入源である。「黒いダイヤ」と称される石炭や、石油資源によって成り立っている国々にたいして、ブータンは言ってみれば「白いダイヤ」ともいえる水資源によって生きる「産電国」ということができる。
そして、石炭や原油は埋蔵量が限られているのに比べ、ブータンの水系は自然環境が守られている限り、つまり今し方紹介した国王の言葉によれば「ヒマラヤが聳え、雨雪が降り、森林が茂る限り」再生される無尽蔵の資源である。この点、ブータンのほうが有利ともいえる。現在水力発電による収入は、国家歳入のほぼ四割を占めているが、新たな発電所の建設により二〇一四年にはほぼ六割に達すると予想されている。しかも、現在全発電量のうち、国内で消費されるのは一五パーセントにすぎず、残りの八五パーセントは、深刻な電力不足に悩むインドに輸出されているが、この傾向は今後も変わらないであろうから、電力はブータンにとっての最大の輸出品目であり続け、ブータンの経済発展と独立を保障するものである。
国土に占める森林の割合を六割以上に保ち、その森林の質を守るというブータンの環境保護政策は、ブータンの最大の資源である水力発電能力を長期的に保つために必要なことでもあり、環境保護と経済発展が補完関係にあるという一石二鳥のあり方といえる。それ故に、ブータンの水力発電所はすべて、日本に見られる巨大なダムを造って河川をせき止め、貯水した水をその地点で落下させて発電する「多目的ダム式」ではなく、上流の小さな堰から山腹に設けられた長いトンネル(導水路)を通して下流の発電所まで水を導き、そこで落下させて発電し、その水をまたしてもトンネル(放流路)を通じてさらに下流で元の川に戻す「流れ込み式」である。
「多目的ダム式」の場合、村落が水没したり、生態系に危害が及ぶことがある上に、土砂が堆積してダムの水底が上昇し、その機能が低下するのでヽ寿命が短いが、「流れ込み式」は建築費も少なく、寿命も長く、環境破壊も少ない。さらには、国全体の電化という面でブータンの特異な点は、少数の大型水力発電所から、長距離の送電線を国中に張り巡らすことはせず、国中のあちこちの水系ごとに小規模の発電所を建設し、送電線は極力短くしていることである。さらに高地の僻地では、積極的に太陽光発電が導入されている。
ブータンの自動車道路は、予算があり、技術的に可能だからという理由だけで建設される「公共事業」ではなく、地域社会、住民にとっての恩恵、弊害の両面を考慮した上で、国全体としての方針に照らし合わせて建設されている。これは、ブータンの近代化の哲学、方針を象徴することである。環境保護および自然資源の有効活用という点で、ブータンの水力発電は特筆に値する。ブータンにとって、落差が大きく水量が豊富な河川は、最大の自然資源であり、それによる水力発電は、ブータン最大の産業であり、最大の収入源である。「黒いダイヤ」と称される石炭や、石油資源によって成り立っている国々にたいして、ブータンは言ってみれば「白いダイヤ」ともいえる水資源によって生きる「産電国」ということができる。
そして、石炭や原油は埋蔵量が限られているのに比べ、ブータンの水系は自然環境が守られている限り、つまり今し方紹介した国王の言葉によれば「ヒマラヤが聳え、雨雪が降り、森林が茂る限り」再生される無尽蔵の資源である。この点、ブータンのほうが有利ともいえる。現在水力発電による収入は、国家歳入のほぼ四割を占めているが、新たな発電所の建設により二〇一四年にはほぼ六割に達すると予想されている。しかも、現在全発電量のうち、国内で消費されるのは一五パーセントにすぎず、残りの八五パーセントは、深刻な電力不足に悩むインドに輸出されているが、この傾向は今後も変わらないであろうから、電力はブータンにとっての最大の輸出品目であり続け、ブータンの経済発展と独立を保障するものである。
国土に占める森林の割合を六割以上に保ち、その森林の質を守るというブータンの環境保護政策は、ブータンの最大の資源である水力発電能力を長期的に保つために必要なことでもあり、環境保護と経済発展が補完関係にあるという一石二鳥のあり方といえる。それ故に、ブータンの水力発電所はすべて、日本に見られる巨大なダムを造って河川をせき止め、貯水した水をその地点で落下させて発電する「多目的ダム式」ではなく、上流の小さな堰から山腹に設けられた長いトンネル(導水路)を通して下流の発電所まで水を導き、そこで落下させて発電し、その水をまたしてもトンネル(放流路)を通じてさらに下流で元の川に戻す「流れ込み式」である。
「多目的ダム式」の場合、村落が水没したり、生態系に危害が及ぶことがある上に、土砂が堆積してダムの水底が上昇し、その機能が低下するのでヽ寿命が短いが、「流れ込み式」は建築費も少なく、寿命も長く、環境破壊も少ない。さらには、国全体の電化という面でブータンの特異な点は、少数の大型水力発電所から、長距離の送電線を国中に張り巡らすことはせず、国中のあちこちの水系ごとに小規模の発電所を建設し、送電線は極力短くしていることである。さらに高地の僻地では、積極的に太陽光発電が導入されている。
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