2015年1月10日土曜日

広がる薬害

輸出するメーカーの言い分は「発展途上国でも農薬なくしては現在のような農業生産を上げることは不可能であり、世界はすぐにも飢えることになる」という一語につきる。これに対しては『農薬スキャンダル』(邦題、三一書房)の著者、D・ウィヤーとM・シャピロは、「発展途上国で使用された農薬の五〇~七〇%が、現地民の食糧生産ではなく、コーヒー、バナナなどの輸出用作物に向けられている」と反論している。

米国会計検査院の報告でも、発展途上国が米国向けに輸出しているコーヒー、トマト、砂糖など主要な一〇品目に使われている農薬の五九%までが、米国内では違法とされていたものだった。「農薬のブーメラン現象」と呼ばれるしっぺ返しである。皮肉なことに、先進国は自分らが売りまくった農薬が、輸入食品を汚染して戻ってくることに脅えることになった。

アフリカで会った米国の平和部隊の隊員に、活動のマニュアルを見せてもらったことがある。「健康」の項には、その国で使ってはいけない医薬品の一覧がある。鎮痛剤であったり、抗生物質であったりするが、その大部分が欧米の名の通った製薬会社製の医師の要指示薬である。アフリカで生活した私の経験では、かなりの奥地でも種類さえ選ばねば抗生物質は日本よりもたやすく手に入る。それだけ先進国の医薬品が、規制もなしに氾濫しているのだ。

先進国では薬害問題が社会的に取り上げられ、副作用のあるものについては医師の処方籤が必要になっているが、発展途上国では相変わらず、製造国で禁止あるいは厳しく制限されている薬剤が野放しで売られている。発展途上国向けの医薬品に、本国と同じ注意書きや警告が添付されることの方が少ない。地元の医師にすら、副作用などは知らされていない場合が多い。

米国の製薬メーカーの業界団体によると、米国内で製造される医薬品の売り上げの四四%は発展途上国向け(一九八五年)という。この輸出を伸ばすためには、かなり悪どいことも行われている。米国の製薬会社が、三種類の抗生物質の売り上げをコロンビアで伸ばすために、賞金つきで薬局に競争をさせたことがある。結局、この三種類で売り上げを大きく伸ばしたが、地元紙の知るところとなって、裁判沙汰になりで一〇〇ドルの罰金を課せられた。そのコロンビアで海外からの製薬会社が使う広告費は、同国の国家保健予算の半分以上に上るという。