2016年1月9日土曜日

金融機関の破綻処理

九四年末から金融機関の破綻処理に取り組んだとき、大変困った。預金保険制度の通りに実行すれば、一〇〇〇万円を超える預金は、全額は戻ってこない。国民はそんなこととは夢にも思っていないから、大混乱が起るだろう。そこで九五年六月に、「五年間はペイオフしない(預金は全額保護する)、そのかわり五年以内に情報開示などペイオフができるように環境整備をする」との方針を打ち出した。

当時はむしろ、五年は長すぎる、もっと早くペイオフを発動しろ、との批判を受けた。ある評論家からは、この方針が不良債権処理を遅らせ、わが国の金融危機を招いた、とまでのお叱りを受けた。批判の背景には、庶民の小口預金は保護する必要があるが、金持ちの大口預金は切り捨てられても仕方がない、との感情がある。しかし困ったことに、金融システムにとって一番怖いのは、影響が大きく逃げ足の速い金持ちの大口預金なのである。感情論と政策論には大きなズレがあった。

アメリカでは銀行が破綻したときにはすべてペイオフされる、との誤解がある。しかし破綻処理のうちペイオフという極端な手法が適用されたのは、全体の五%程度である。しかもそれはわが国で言えば小さな信用組合程度の規模のものを対象としていた。拓銀や長銀のような基幹金融機関にペイオフを適用するなどということは、全く考えられていない。ごく最近では、金融情勢が改善されたこともあろうが、小規模のものの適用例もなくなった。

九五年六月に、五年後には預金保険法に定められている通りペイオフもできるようにしたい、と説明した。同時にその時、「ペイオフは経済社会全体から見てコストの大きな処理方式である。金融機関の破綻処理に際しては、基本的には、資金援助(合併など)の可能性をまず追求することが適当である。」との方針も明らかにしている。また、資金援助以外の破綻処理方式の多様化が必要とも考え、実際そのような制度はある程度整備されている。