2014年6月5日木曜日

危険因子の重複

高血圧症治療の目的は、高血圧によって起こる脳卒中、虚血性心臓病などを予防することです。単に血圧を下げれば高血圧症治療の目的を達成出米るのであれば、優れた降圧剤が多数開発された現在では難しいことではありません。しかし、降圧薬療法の効果を確認するために欧米で行われた研究の成績では、降圧薬療法により脳卒中は予想どおり減らすことが出来ていますが、虚血性心臓病(心筋梗塞と狭心症)に関しては予測の半分以下の減少しか認められていません。

その理由として種々の意見かあります。最も重要なものとして動嘔硬化が基礎にあって発症する病気の予防には血圧管理ばかりでなく、介併している頻度が高い動脈硬化の危険因子を改善する必要性が挙げられています。高血圧症は多くの例で、男性は四〇歳代、女性は五〇歳代で発症します。この年代になると、高血圧症患者が血圧だけ高いことは比較的少なく、肥満、高脂血症、糖尿病のいずれかを合併しています。この危険因子の重複、あるいは複合現象は、欧米においてインスリン抵抗性症候群などの概念が提唱される背景となっています。

米国の研究では白衣高血圧症と考えられる例でも血中コレステロール、中性脂肪が正常血圧例より高いことが報告されています。なぜ高血圧症患者に糖尿病など他の危険因了が合併するのかはまだ判然としていませんが、高血圧症患者では血圧管理だけですむ例よりも、血圧以外の危険因子にも配慮しなければならない例の方が圧倒的に多いことは誰しもが認めるところです。米国フラミンガムで三〇~四九歳までの男性五〇〇〇名以上を対象として行われた十年間の追跡調査(フラミンガム研究)は、血圧の高さは同じでも他の危険因子が多ければ多いほど虚血性心臓病発症率が高くなることを証明しています。

八年間の虚血性心臓病発症率は、最高血圧一九五でも総コレステロール一八五の時には千人中四六人(四・六%)ですが、最高血圧が一九五と同じでも総コレステロール三三五の時には同二○人(二一%)、耐糖能障害(糖尿病)を合併していると同三二六人(三二・六%)、耐糖能障害(糖尿病)を合併しているうえに喫煙をしていると同四丘九人(四五・九%)という高率に上ることを示しています。これは高血圧症、高コレステロール血痢糖尿病、喫煙が虚血性心臓病の重要な危険因子であることを証明する貴重なデータです。