2014年7月4日金曜日

安定成長時代に移行

昭和五十年代に入り安定成長時代に移行するにつれて、土地の高値安定と保有コストの上昇が定着し、こうした経済環境は地主の意識を「所有から利用へ」と大きく転換させ、土地信託を受け入れる土譲は徐々に醸成されてきました。そして五十八年秋、公共的な事業への民間活力導入の声を契機に土地信託は一躍脚光を浴びることとなりました。今回の構想は従来の延長線上にありながら、受託者による借り入れが明確に認められたことから、土地の診断、マーケットリサーチ、事業プランの企画、所要資金の調達、建物の発注、テナントの募集、そして建物の管理・運営に至るまで、いわばワンセットで信託会社が一貫して引き受ける形に拡充されたわけです。

とりわけ、地主が複数の場合には大きな威力を発揮します。委託者である地主は、土地の所有権を実質的に手放すことなく、また直接開発資金を用意せずに土地の有効活用を図り、安定した収益を信託配当の形で長期間亭受することができます。不動産事業のノウハウや経験のない人、別に本業があり不動産事業を営む時間、あるいはスタッフのない人、細分化している土地を統合して効率のよい共同事業をしたい人にとって、格好の仕組みといえましょう。高い地価が顕在化するおそれがないことも魅力の一つです。

土地信託は、昭和五十九年三月の第言万受託を皮切りに、順調に普及しつつあり、平成元年三月現在では千五百件(信託契約ペース)の契約が成立しています。その事業内容はオフィスビル、賃貸マンションなどが中心ですが、土地の規模、地価、立地条件ないしは周辺の環境を反映して、外人向け住宅、店舗、スポーツ施設、ファミリーレストラン、ハイテク研究所、工場団地施設など幅広い用途にまで広がっています。また、分譲マンションや宅地の造成分譲などの、いわゆる分譲型のタイプにも導入されています。

今後を展望すると、本格的な複数地主による共同ビル事業や再開発事業といった。点から面への展開と、現在遊休化している国公有地の有効活用のための信託の利用が、普及促進の大きなバネとなるものと予想されます。いずれにせよ、本格的な「事業執行型信託」の突破口を切り開いた商晶とみることができようかと思われます。