2012年5月3日木曜日

全人代と期待先行の銅相場

非鉄金属のなかで銅地金の国際価格が先行して底入れの兆しが出てきている。世界最大の消費国である中国向けの需要回復期待が高まっていることが背景にある。銅地金は電線向けが主用途で、中国が景気刺激策として積極的に推し進めようとしているインフラ整備を柱とする公共投資の恩恵を最も受ける素材のひとつとみられているためだ。ただ、一気に底入れへ向かうほど市場心理は楽観ムード一色ではないようだ。

銅地金の国際指標となっているロンドン金属取引所(LME)3カ月先物価格は、全国人民代表大会(全人代)の開催期間前後の相場展開に市場の期待と不安の入り交じった現在の心理を如実にあらわす結果となった。開催前日の4日に大幅上昇し、公示価格ベースで1トン3745ドルと2008年11月以来の高値を回復した。昨年打ち出された4兆元(約58兆円)の景気対策の増額への期待感があったためだ。だが、実際は増額はなく、8%成長実現へ向けた政策内容が具体的に示されたにとどまった。この結果、LME価格は12日には3580ドルまで下落。期待先行で買い仕掛けていた投機的な短期売買中心のファンド勢が手じまい売りに転じたためだ。

市場では中国の景気刺激策がいずれ銅需要を押し上げるのは確実とみれているが、そのタイミングと継続力に確信が持てないのが現状だ。

すでに現物取引をみると相場は大底に達したとの見方から中国勢が買い仕込む動きも目立っている。銅地金のLME指定倉庫在庫量はアジア地区(韓国・シンガポール)で3月に入って25%程度減少した。製錬会社が輸出する際に地域ごとの需給を映してLME価格に上乗せするプレミアム(割増金)は上海向けスポット価格(CIF=運賃・保険料込み)が現在1トン90―100ドルと昨年末から72%上昇した。

中国は戦略物資の備蓄積み増しの一環として銅地金を同国内の製錬会社から約30万トン程度買い上げ、09年中に合計100トン規模で備蓄を積み増すとの観測も市場では出ている。民間の中国商社の間でも先行きの需要拡大に備えて調達する動きが広がっている。

一方、実際に中国で内需が拡大へ向かうのには時間がかかるとの見方も根強い。昨年秋の米国での信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)問題に端を発した世界景気悪化で中国の輸出企業は軒並み経営悪化が広がり、失業増大にもつながった。全人代で温家宝首相が掲げた8%成長実現のためには輸出依存から内需依存への転換がカギになる。だが、「内需型への産業構造の転換には時間がかかり、それまでは高水準の失業率や個人消費の低迷が続く」(商社)との慎重な見方も出ている。

中国経済全体が公共事業の立ち上がりである程度は当面の支援要因になっても、民需が引き継ぐ形で内需をけん引していかなければ本格的な景気回復には結びつかず、「8%成長実現」もおぼつかない。銅地金にとっても持続的な中国需要拡大が見込めるかどうか、まだ見極めかねている。このため、しばらくは期待と失望の交錯するなかでの振れの大きい展開が続きそうだ。